じれったい音楽というのがある。僕にとってそのような音楽のひとつが、ドビュッシーの管弦楽のための映像の第3曲『春のロンド』だ。曲名から想像できるのは、楽しそうなうきうきした雰囲気だが、実際に聴いてみると、霧のかかったひんやりとした音楽が続き、曲の最後になって、イングリッシュホルンが沖縄民謡風の祭りの始まりの音楽を奏でて終わるというもの。
ドビュッシーは『春のロンド』のスコアの冒頭に
「五月よ、万歳。よくやって
きた。風の吹き流しをもって」
と書いているのだが、どうもこの言葉と音楽がミスマッチに思えてしまう。実際に、「北国のロンド」とこの曲を揶揄した評論家もいたようである。しかし、印象主義の傑作の数々を生みだしたドビュッシーのことである。彼の自然や季節に関する感性は素人の感覚を超えたとても鋭いものがあるはず。ここには、ドビュッシーの季節を先読みする感覚があるのではないだろうか。
春の朝の霧と大気と光の中に
これから起ることを感じ取っていたのかもしれない。
