僕の会社に勤めている、定時制高校に通っている社員の卒業式の日だった。また、今日は彼の退職日でもあった。
いつもの作業着姿ではなく、スーツを着た姿で「お世話になりました」と卒業式に向かって行った。
仕事は出来ない彼だったが、スーツを着た彼の姿はなぜか輝いて見えた。
ニュルンベルグのマイスタージンガー前奏曲は卒業式などで、しばしば演奏される。オペラの内容はさしおいて、この前奏曲だけで立派な堂々とした曲になっている。
ワーグナーの作品はどれも傑作ばかりだが、僕はこの曲が一番好きだし、もしクラシック初心者でワーグナーの曲を紹介するならこの曲を薦める。
僕はこの曲を聴いて、高校生の頃油絵を書いたことがある。祝福の木を囲んで人々が喜びの歌を歌っているきわめて抽象的な絵だ。このようなすばらしい曲と一体となりたかったのだ。
旋律、オーケストレーション、劇的な転調、すべてにおいて傑作の要素がそろった曲、これほど素直に心に語りかけ、迷える僕を、ほっとさせてくれ、出発点に帰らしてくれる曲はワーグナー随一である。
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